土地を売買する時、必ずと言っていいほど、ある職業の人はあるものを調査します。
それは誰が何を調査するのだと思いますか?
今回のテーマは土地の売買時に非常に大切なあるものを調査する、『土地家屋調査士』からの見聞録となります。
「え?土地家屋調査士?何屋さんですか?」よく聞かれるので、そういう反応はもう慣れています。
「土地の値段教えて下さい」、これまたよく聞かれますが、不動産鑑定士ではありません。稀にシロアリの駆除も頼まれますが、実物のシロアリは見たこともありません。
『境界線を明らかにすること』、それが土地家屋調査士の仕事です。
土地の売買にはとても大切なことで、正確な面積というのは境界線に囲まれた範囲の内側のことを指し、面積が定まらなければ売買金額は出せません。
また、買主さんが購入後に境界トラブルに巻き込まれないためにも、境界線が明確な土地というのは現代の不動産取引において最重要条件のひとつになっています。
ということで非常に大切なあるものは『境界線』となります。
では『境界線』はどのようにして明らかにしていくのか、
と、その前に『境界線』はいつ誰がどのように作ったのか歴史を紹介します。
時は遡ること明治6年、『地租改正』という政策が発表されました。今まで米で納めていた年貢を現金で徴収することになったのです。
その際に土地所有者に名前・面積・地価・課税額を記入した権利証の基となる地券を交付しました。
私人の土地所有権を国が公認した始まりでもあり、その時に引かれた境界線が原始筆界と言われ現在法務局(国)が管理している境界線の基になっています。
ところが、役人が全ての土地を調査し測量することなど時間的に到底できず、かの有名な伊能忠敬でさえも17年の歳月を費やして日本地図を作成しています。
しかも大陸の外周を測量したに過ぎず(それだけでも超が付くほど凄いことですが…)、個々の土地の境界線まで測量しようとすると、国家プロジェクトでも数百年は掛かると言われています。
そこで国が取った方法は自己申告させるというものでした。つまり境界線は明治初期より順次国民の申告により作られたということになります。
…だとすると一つ仮説を唱えたくなります。
「小さい面積で申告すれば、自ずと課税も少なくなったのではないか」、「こぞって小さく申告したのではないか」。
当時の測量は縄を使用していたことから、きちんと測量しなおすと面積が大きくなることを『縄伸び』と言いました。
実は現代の測量技術で再測すると、『縄伸び』する土地は結構多いのです。
もちろん、現代の測量技術と当時とでは大きな差はあるものの、『縄伸び』する土地の方が多いのは技術だけの問題で片づけることはできません。
上記理由のほかにも、「江戸時代の年貢の計算方法の慣習が過少申告になったのではないか」という研究家もいます。(以下一例)
① 日照の悪い土地は農作物の収益性を考慮し、台帳面積を小さくして年貢を少なくした
② 池や石塚など収益性のない部分は台帳面積から除外し、年貢は取らなかった
③ 端尺切捨といって端数を切捨てた
④ 過酷な年貢の取立から農民を疲弊させないために、現代でいう「課税面積控除」なる『縄心』という粋な計らいがあった
現代でも確定申告や決算など、多くのものは自己申告で成り立っており、ほとんどの人や法人は誤魔化さず正確に申告しているものです。
当時の人々であってもきっとそうであったに違いなく、過少申告の原因は誤解から生まれたものだったのではないかと私は考えています。
ただし真実はどちらにせよ、現在の法務局(国)で管理している登記面積は、そうした経緯から誕生したものが基になっている実状があります。
当時申告された町反畝坪(昔の面積単位)を現代の平方メートルに換算して記載されているだけなのです。
では境界線はどうかというと、『公図』という土地の地番と形だけが描かれている法務局にある図面をご存知でしょうか。(下図参照)
元々手書きだった図面は現在パソコンで編集されてはいるものの、公図こそが地租改正時の国民からの申告を基に作成された図面の現代版なのです。
しかし肝心の境界点間の寸法はどこにも記載はありません。これでは誰だって境界線を明らかにすることなどできません。
それでも境界線を明らかにするために、土地家屋調査士はどうするのか。
法務局もまた、信用されない登記情報のみを公示しているわけではなかったのです。
投稿者プロフィール
- 土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記をお客様に代わって申請できる唯一の国家資格を持つ専門家です。不動産は高価な資産であり、正確に登記することが財産の保全にも繋がり取引の安全が計れます。当事務所では、昭和26年開業以来『迅速』『丁寧』『正確』をモットーにさまざまな業務を取り扱ってきました。豊富な経験を生かし、お客様が安心してご依頼いただける、まちの専門家であり続けたいと思っております。
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