平成最後の夏は、とてつもない猛暑ですね。
私も日々汗だくになりながら仕事をしています。みなさんも熱中症には注意してがんばってください。
さて、今回は相続法の改正についてお話ししたいと思います。
みなさんもご存知かもしれませんが、民法の中の相続に関する規定(相続法)が平成30年7月6日、40年ぶりに改正されました。
施行は2020年7月までになされる予定です。
改正された内容は幅広いのですが、今回はその中の「配偶者居住権」の新設についてお話ししたいと思います。
「配偶者居住権」の新設は高齢化が進む中、残された配偶者が住居や生活費を確保しやすくする狙いがあります。
遺産分割は被相続人の不動産や預貯金などの財産を相続人(配偶者や子供ら)で分ける制度です。
現行制度では、財産が自宅以外に乏しかったり、配偶者と子供の関係が良好でなかったりすれば、 自宅を売却して遺産分割をし、配偶者が退去を迫られるケースがあります。
配偶者が自宅の所有権を取得して住み続けたとしても、自宅評価額が高額だと預貯金などの取り分が少なくなり、生活が不安定になる恐れもあるのです。
今回の改正案は、自宅の権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分けるのがポイントです。
配偶者が遺産分割の際の選択肢として「配偶者居住権」を取得できるようにし、 所有権が別の相続人や第三者のものになっても自宅に住み続けることができます。
耳慣れない言葉だと思いますが、今後の相続においてとても重要なものですので、知っておくとよいと思います。
【2つの配偶者居住権】
今回法律上明記された配偶者居住権には、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」があり、
(前編)では「配偶者短期居住権」について解説します。
【配偶者短期居住権】
(1)「配偶者短期居住権」というのは、遺産である自宅建物(以下「居住建物」といいます)に居住している配偶者について、一定期間、無償で居住建物に居住する権利を認めるというものです。
(2)改正する以前も、裁判所は、被相続人の許諾により居住建物に無償で居住している配偶者がいる場合、被相続人としては遺産分割までは無償で住まわせる意思があるだろうということで、遺産分割が完了するまで無償での居住を認めていました(最高裁平成8年12月17日判決)。「配偶者短期居住権」は、この判例の趣旨を受けて条文化したものといえます。
(3)「配偶者短期居住権」の内容は以下のとおりです。
① 居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合
この場合、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、又は相続開始(被相続人が亡くなった日)から6か月を経過した日のいずれか遅い日までの期間、配偶者は、無償で居住建物に居住することができます。
② 上記①以外の場合(例えば、遺言書で居住建物の帰属が決まった場合)
この場合、居住建物の取得者が配偶者に申入れをした日から6か月を経過するまでの間、配偶者は、無償で居住建物に居住することができます。なお、「配偶者短期居住権」が認められた場合でも、後編で述べる「配偶者居住権」の場合と違い、配偶者が受け取ることができる相続分には影響はありません。
(4)「配偶者短期居住権」は、使用貸借(無償で貸借を受けること)と同じような取扱いになります。居住する配偶者は、居住建物の修繕をすることができますが、善良なる管理者の注意をもって管理をする義務も負うことになります。かかった費用のうち、通常の必要費(日常的な管理のために必要となる修繕費用など)は、配偶者が負担することになります。
(5)「配偶者短期居住権」が消滅した場合(上記の期間経過など)、配偶者は、居住建物について、相続開始時の状態に原状回復をして返還することになります。この原状回復については、通常の使用により生じた損傷及び経年変化を除くこととされています。
(6)例えば、夫が所有していた居住建物に夫と妻が一緒に住んでいたとします。その後、夫が死亡し、相続人は妻の他、子どもが2人(C、D)います。この場合、遺言書がなければ、妻、子C、子Dで遺産分割協議を行うことになります。協議の結果、相続が開始してから1年後に子Cが居住建物を相続した場合には、この1年間は妻は自宅に居住することができ、その後に原状回復をして子Cに建物を明け渡せばよいことになります。
(後編)では「配偶者居住権」について解説します。
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