今回はお亡くなりになった方の預貯金についてご説明します。
預貯金についてこれまでの運用
少し前まで、預貯金は「遺産」ではないので遺言がなく、
かつ、相続人同士で揉めていても金融機関と直接交渉したり、
訴訟を提起することで自分の法定相続分を取得することができました。
例えば、亡くなった夫と二人暮らしをしていた専業主婦である妻にとっては、
このような方法で当面の生活費を確保することができました。
最高裁の決定
しかし、最高裁は平成28年12月19日、
普通預金債権、定期預金債権、定期積立債権は「遺産」であることを前提に
遺産分割の対象となると言及しました。
この決定は一部の相続人が被相続人から財産を先に受領していて(特別受益といって遺産分割時に清算されます)、
さらに預金を法定相続分払い戻すことについての不公平感をなくすこと等、
それはそれで意味のある内容です。
しかしこの最高裁の決定により、今後は相続人が金融機関と直接交渉したり、
訴訟を提起して自身の法定相続分だけでも確保することができなくなりました。
そうすると、各相続人は原則として遺言がなく、
相続人の間でも合意ができない場合は、
家庭裁判所の遺産分割調停・審判を経ないと預貯金を払い戻すことができません。
当面の生活費どころか、葬儀費用すら用立てることができなくない場合が考えられます。
遺産分割調停・審判は1年くらいで終わることもありますが、
5年以上かかることも稀ではありません。
その間、預貯金を払い戻すことができないと、
金銭面で非常に困窮した相続人が現れることが容易に想定されます(先ほど述べた専業主婦などです)。
今後の対応策
このような事態に対処する方法として、
「仮分割仮処分」といって、
緊急性の高い場合に仮の裁判で預貯金の一部を調停成立・審判前に払い戻すことが考えられます。
しかし仮分割仮処分は未だ運用実績が少なく、事前に遺言を残しておいてもらう方が現実的です。
また、今後の法改正が待たれます。
投稿者プロフィール
- 当事務所はさまざまな分野の法律紛争に対応しておりますが、案件としては相続事件がやや多めになっております。相続対策は早いほど効果的。気になることがある方は一度ご相談ください。平成25年4月 当事務所の弁護士たちで、東洋経済新報社より『新版 図解 戦略思考で考える「相続のしくみ」』を上梓しました。事務所は、アクセスの良い銀座一丁目駅にあります。まずはお問い合わせください。
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