日常生活を送っていると、近隣トラブルに巻き込まれることも少なくありません。
今回は隣地の木の枝が越境して、自分の土地に入り込んでいる場合について考えてみます。
まず法律上、隣地の竹木の枝が越境している場合、その竹木の所有者に対して、その枝を切除させることができると規定されています(民法第233条1項)。
つまり、法律上は越境している枝を切ることを所有者に請求できます。もっとも、逆に解釈すると越境されている側としては、「自らその枝を切除することは出来ない」という解釈も成り立ちえます。
この点について,もう少し具体的に検討してみましょう。
なお、枝ではなく「根」が越境している場合は、「越境されている側」が自ら切り取ることができます(民法第233条2項)。
裁判所はどのように判断しているのか
越境されている側は、木の所有者が「越境している枝を切除してほしい」との請求に応じない場合、裁判所に訴訟を提起することができます。その場合、枝が越境しているという事実のみで必ず請求が認められるでしょうか。
この点、やや古いですが参考になる裁判例があります。その裁判例によると、隣地の木が越境してきている場合であっても…
① その越境により何らの被害も被っていないか
② あるいは被害を被っていても、その程度が極めて小さなものであるか
③ または切除によって被害者が回復する利益が少ないのに対し、木の所有者が受ける損害が不当に大きすぎる
…のいずれに該当する場合は、その請求は権利の濫用として認められないと判断しています(新潟地方裁判所昭和39年12月22日判決)。
この判断の根底には、隣接する不動産を相互に利用する関係上、各所有権を制限する反面、各所有者に協力義務を課すという趣旨から、
①②③のような場合は、権利の濫用として許されないという考えがあります。
仮に、上記①②③のいずれにも該当しない場合に、越境されている側がその枝を切除した場合、何らかの法的責任が生じるのでしょうか。
この場合には、他人の所有物を損壊させたということで不法行為責任に基づく損害賠償義務が発生します。
したがって、発生した損害について賠償をしなければなりません。
しかし、「必ず全額を賠償しなければならないか」については検討を要するところです。
実際には、「隣地は空き地になっていて所有者が全く手入れをしていない」、
または「そもそも所有者が誰なのかわからない」という状況も多く、
その場合に切除を請求して、さらに裁判の結果まで待っていると時間がかかりすぎるということもありえます。
そのような場合、発生した損害に対して、切除された側の過失を考慮して過失相殺が認められる場合があります。
実際に所有者が別荘地の管理を怠り、荒れるに任せて放置したような場合には、所有者の過失割合を5割とする裁判例もあります(大阪高裁平成元年9月14日判決)。
したがって、所有者側の管理行為の対応も適切になされていないといけません。
どのような対応がよいのか
社会生活を送っている以上、ご近所との付き合いは少なからず発生します。
そして、木の枝が越境している場合には原則として、所有者は枝を切除しなければなりません。
そう考えると、よほど大きな事情がない限り、越境されている方は隣地の木の所有者に枝を切除するよう請求し、
越境している方は請求されたとおりに枝を切除することが、円満なご近所付き合いにつながることが多いでしょう。
その方がお互いにストレスを抱えることもないので、良いのではないでしょうか。
投稿者プロフィール
- 当事務所はさまざまな分野の法律紛争に対応しておりますが、案件としては相続事件がやや多めになっております。相続対策は早いほど効果的。気になることがある方は一度ご相談ください。平成25年4月 当事務所の弁護士たちで、東洋経済新報社より『新版 図解 戦略思考で考える「相続のしくみ」』を上梓しました。事務所は、アクセスの良い銀座一丁目駅にあります。まずはお問い合わせください。
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