インターネットの普及に伴う同時配信等(同時配信・追っかけ配信・一定期間の見逃し配信)の要望が高まっています。しかし、著作権にかかわる様々な問題があり、いまだ音楽や映像が円滑に利用されているとは言い難い面があります。
そこで、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化を図る今回の法律案(令和3年5月26日)では、以下の5項目について改正しました。
① 権利制限規定の拡充
② 許諾推定規定の創設
③ レコード・レコード実演の利用の円滑化
④ 映像実演の利用の円滑化
⑤ 文化庁の裁定を受けて著作物等を利用できる制度
① 権利制限規定の拡充
権利制限規定の拡充とは放送では許可なく著作物を利用できることを定める「権利制限規定」(例えば学校教育番組の放送)を同時配信等に拡充することです。
つまり、一部の例外を除き同時配信等でも著作権者等の許可なく配信できることになります。
② 許諾推定規定の創設
★現行法★
写真やイラスト等について放送番組で権利者が利用を許諾していても、同時配信等出は別途許諾が必要になります。
しかし、同時配信や追っかけ配信など、迅速な対応が必要な場合には許諾を得ることは非常に困難です。
★改正法★
権利者が放送番組において利用を許諾している場合には、権利者が別段の意思表示をしていなければ同時配信等での利用も許諾したと推定することになりました。
その結果、同時配信等で原則として別途許諾を得る必要はありません。
③ レコード・レコード実演の利用の円滑化
★現行法★
レコード(音源)・レコード実演(音源に収録された歌唱・演奏)について、放送で利用する場合には事前の許諾は必要ではありません。
しかし、同時配信等で利用する場合には事前の許諾が必要になります。
実際には同時配信等では、著作権等管理事業者による集中管理等が行われている場合には円滑に許諾を得ることができますが、そうでない場合には円滑に許諾を得ることが困難です。
★改正法★
同時配信等に関して集中管理等が行われておらず、円滑に許諾を得られないと認められるレコード・ レコード実演について、通常の使用料額に相当する補償金を事前または事後に支払うことで、事前の許諾なく利用することができるようになります。
④ 映像実演の利用の円滑化
★現行法★
映像実演(俳優の演技等)について放送で利用する場合には、著作隣接権者である実演家から事前許諾を得る必要があります。初回放送時に許諾を得ていれば、再放送時には許諾は不要で追加報酬を支払えばよいとされています。
他方、同時配信等についてはこのような規定がないので、別途許諾が必要となります。
★改正法★
「③レコード・レコード実演の利用の円滑化」と同様に、同時配信等に関して集中管理等が行われておらず、円滑に許諾を得られないと認められる映像実演について、通常の使用料額に相当する補償金を事前または事後に支払うことで、事前の許諾なく利用することができるようになります。
⑤ 文化庁の裁定を受けて著作物等を利用できる制度
★現行法★
放送事業者が著作物を放送しようとして権利者に許諾を得ようとしたものの、協議が整わない場合、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を支払うことにより、放送できるという制度があります。しかし、同時配信等については適用がありません。
★改正法★
この制度の対象を放送同時配信等にも拡充することにしました。
今回の改正は一見して一般の利用者にはあまり関係ないようにも見えます。
しかし、現在ほどインターネットが発達すれば、新たな対応が必要となり、結果的に一般の利用者にとって非常に便利になるものです。
普段はあまり意識をすることがない分野かもしれませんが、著作権者等を保護しつつ、一般利用者も便利になるという重要な改正だと思います。
投稿者プロフィール
- 当事務所はさまざまな分野の法律紛争に対応しておりますが、案件としては相続事件がやや多めになっております。相続対策は早いほど効果的。気になることがある方は一度ご相談ください。平成25年4月 当事務所の弁護士たちで、東洋経済新報社より『新版 図解 戦略思考で考える「相続のしくみ」』を上梓しました。事務所は、アクセスの良い銀座一丁目駅にあります。まずはお問い合わせください。
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