近年、歌手のadoさんや直木賞作家の一穂ミチさんをはじめとして、各メディアに顔を出さないで活動するアーティストや作家が増えています。
これはSNSが普及したことにより、インターネット上にひとたび個人情報や顔が出ると、消すことができず、いつまでも情報として残ってしまうことが大きな理由の一つと考えられます。
名前で検索するとすぐに顔が出てしまうということは、プライバシーの観点からも、防犯上の観点からも、避けたいと思う人が多いのでしょう。
これは有名人だけの問題ではありません。SNS上でいわゆる「炎上」した人が顔写真から住所や学校まで特定されたり、インスタのストーリーに無断で友人を乗せてしまい、トラブルになるといった問題は後を絶ちません。
有名人ではなくても、個人には「肖像権」があり、みだりに容貌や姿態を撮影されない権利(撮影拒否権)、撮影された自分の肖像を他人に勝手に使用・公表されない権利(使用・公表の拒絶権)があります(最高裁平成17年11月10日判決等)。
また、有名人の肖像や名前を商業的に利用して、当該人物の経済的利益を害した場合には「パブリシティ権」の侵害になります。
以下、裁判例の立場から、どのような場合に肖像権侵害となり、損害賠償請求を受ける場合があるのかを検討していきましょう。
【ケース①】
プールに行った際、子どもが歩いている姿がかわいかったので、保護者の了解を取らずに写真を撮り、SNSにアップロードした。
この行為は肖像権侵害となる可能性があります。
かわいいからと言って軽い気持ちでSNSに上げてしまうと、子どもが思ってもみない形で不特定多数の人の目にさらされることになります。
顔が明らかになり、他の投稿等から個人情報が洩れれば、児童ポルノの対象とされたり、誘拐等の被害に遭う等のリスクも否定できません。
肖像権侵害となるかどうかは、「撮影によってその人の人格的利益の侵害が社会生活上受任の限度を超える場合」に該当するかどうかで判断されますが、
子どもの写真であること、親権者の同意を得ていないこと、家の中で撮影されたものであること、また、たまたま映り込んだのではなく、子ども自身が写っており顔が分かる状態であるといった事情があれば、
「受忍限度を超える」と判断される可能性が高いといえるでしょう。
【ケース②】
町で買い物中の有名人を見かけたので、こっそり写真をとってSNSに上げた。
有名人だからといって勝手に写真を撮ったり、SNSに上げていいわけではありません。
プライベートの時間を過ごしている有名人を写真に撮ったり、SNSに上げた場合は肖像権侵害になる可能性があります。
【ケース③】
「公務員には肖像権がない」と聞いたので、市役所で働いている人の動画を撮って動画サイトに上げた。
公務員にも肖像権はあります。
たしかに、例えば公の行事で知事の横に公務員が映り込んでいる等、写真に撮られたり、公衆の面前にさらされることが想定されている場合に至るまで、肖像権が発生する可能性は少ないのですが、
写真を撮られることが一般的に想定されていない場合には、公務員の写真や動画をアップロードすることが肖像権侵害になることはあり得ます。
写真がSNSに上がるということは「思い出が共有できてうれしい」という側面がある一方で、「世界中の誰もが見られる状態に置かれる」ということにも着目する必要があります。
映り込んだ背景から住所を特定されたり、加工されて望まない形で使われることがあるかもしれません。
今は画像検索の精度も上がっているため、具体的な損害がなくても、「自分の顔を世界中に公開されたくない」という人の気持ちは尊重されるべきでしょう。
投稿者プロフィール
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●記事執筆:弁護士 藤田香織
●事務所紹介:みなとみらい線 馬車道駅からすぐの当事務所は、さまざまな分野で活躍する4名の弁護士が所属しております。ご利用いただきやすい立地と親しみやすい雰囲気づくりを心掛けております。ご相談いただく事で、少しでもご依頼者さまの心の負担が軽くなるよう、真心を込めてサポートいたします。
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