高齢者の安定した生活のために…「配偶者居住権」新設(後編)

今回の相続法改正の重要な議案の1つとして加えられたのが、「配偶者居住権」です。

これまで民法では、被相続人が亡くなった場合の配偶者の居住権については何も規定していませんでした。

その結果、これまで何十年も一緒に居住していた配偶者が、他の相続人に家を明け渡さなければいけない事態が発生しています。
このような事態を解消し、配偶者の居住権や生活を保護するため、解決の糸口として検討されているのが「配偶者居住権」の新設です。

法律上明記された配偶者の居住権には、「配偶者居住権」「配偶者短期居住権」があり、(後編)では「配偶者居住権」について解説します。

 

【配偶者居住権】 

(1)上記の「配偶者短期居住権」と異なり、「配偶者居住権」は、基本的には配偶者の終身の間、無償で居住建物に居住することを認める制度となります。「配偶者短期居住権」のように、これまで判例で認められてきたものではなく、今回の相続法改正により新設された制度です。

(2)「配偶者居住権」が認められる以前は、居住建物を配偶者が取得することで、配偶者の経済状況に大きな負担が生じることがありました。遺産分割の場合、遺産を金銭的に評価し、法定相続分に応じたものを取得することとなります。居住建物(不動産全体)を金銭的に評価すると高額になりがちであるため、配偶者が被相続人の生前同様に居住建物に住もうと思う(居住建物を相続する)場合、居住建物以外の遺産を取得できなかったり、場合によっては、自分の法定相続分を超えて取得することになってしまうため、他の相続人に金銭を支払わなくてはならないなどということも生じ得ました。これでは配偶者の保護として十分ではないということで、今回の相続法改正により新設されたのです。

(3)「配偶者居住権」は、以下のような場合に認められます。

① 遺産分割で、配偶者居住権を取得することとされたとき
「配偶者居住権」が遺贈の目的とされたとき(被相続人が遺言書にその旨記載することになります)
③ 家庭裁判所が「配偶者居住権」を認める旨の審判をしたとき

※共同相続人間で「配偶者居住権」の合意があるときや、それ以外の場合で配偶者が「配偶者居住権」の取得を希望しており、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められるときに、家庭裁判所はその旨の審判をすることができます。

(4)「配偶者居住権」を取得した場合、配偶者は、基本的に終身、無償で居住建物に居住することができます(期間を限定することも可能ですので、その場合には、当該期間内ということになります)。
「配偶者居住権」については登記をすることもできますが、譲渡することはできません。

(5)「配偶者居住権」を取得した場合には、「配偶者居住権」の価値分(居住建物全体の価値ではありません)だけ相続をしたことになり、遺産分割においては、その分だけ配偶者の取得分が減ることになります。そうすると、「配偶者居住権」をどのように評価するのかが重要となりますが、今の時点で確定的な評価方法が決まっているわけではありません。改正を審議している際には、建物賃借権の評価額+(賃料相当額×存続期間-中間利息額)という式が示されていました。実際のどのように評価していくことになるのかは、改正後の実務の中で決まっていくことになると思われます。

(6)「配偶者居住権」を取得した場合の修繕の仕方や善管注意義務については、おおよそ「配偶者短期居住権」と同様に扱われています。返還の際の原状回復義務も基本的には「配偶者短期居住権」と同様です。

(7)上記と同じ家族構成を前提にした場合、夫が遺言書において、妻に「配偶者居住権」を与える旨の遺言を残していたとします。この場合、妻は終身、自宅不動産に居住することができ、その分の遺産を取得することになります。遺産としてその他に5000万円の預金があり、「配偶者居住権」が2000万円、「配偶者居住権」を除いた自宅不動産が3000万円と評価できるとした場合、妻は「配偶者居住権」のほかに3000万円の預金を取得することができます(配偶者の法定相続分は2分の1なので、1億円の2分の1である5000万円を相続することになります)。

夫が遺言書を残していない場合には、家庭裁判所が「妻が配偶者居住権を相続したい」との意向を示し、自宅不動産の所有権を相続する者に対する不利益を考慮してもなお、妻に「配偶者居住権を取得させるべき」と考えたときには、「配偶者居住権」を妻に取得させるとの審判をすることになります。その場合の遺産分割の扱いは、上記と同じように考えることになります。

このように「配偶者居住権」が認められることにより、今後の相続実務には大きな影響が生じることになります。
改正法の施行後に相続が発生した場合には、専門家に相談しながら、適切に対応された方がよいと思います。

その他、相続に関することでお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。

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田中・石原・佐々木法律事務所
田中・石原・佐々木法律事務所
フットワークのよさに定評のある40代の弁護士4名からなる法律事務所です。専門・得意分野が幅広いことも強みの一つ。分野の異なる法律事務所で研鑽を積み、税理士等他士業と連携体制も取れております。また、セミナーや講演も積極的に行い、良質なリーガルサービス実現を目指しております。事務所は、交通の便が良いターミナル駅JR・東急各線「武蔵小杉駅」から徒歩5分。首都圏エリアのご相談可能です。

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