マイホームの売買契約締結後、引渡しの前までに台風で建物が倒壊した、または隣家の出火によって建物が焼失したなどが原因で売主の引渡義務が果たせなくなった場合に、買主(不動産物件を買う人)の代金支払債務が消滅するのか、しないのかという「危険負担」の問題が出てきます。
危険負担とは、契約当事者(売主と買主)の責めに帰することができない原因で、契約当事者の一方の債務の履行が不可能になった場合に問題となる概念です。
簡潔に言うと「売主と買主のどちらが危険を負うのか」ということになります。
住宅の売買では契約が成立し、買主が代金を支払う前、売主(不動産物件を売る人)の責任とはならない自然災害によって住宅が倒壊してしまった場合、売主は「目的物引渡義務」(完成した建物などを引き渡す義務)が果たせなくなってしまいます。
このように売主、買主どちらも悪くない時に「どちらが代金を負担するか」という問題が起こります。
現行の民法では買主は住宅の購入後、入居日までに災害で住宅が倒壊してしまった場合、住宅の引渡しを受けていなくても代金を支払う必要があるのです。
このとき、買主つまり債権者が代金を支払うべきだという考え方を「債権者主義」、売主つまり債務者が「代金をもらわずに諦めろ」という考え方を「債務者主義」といいます。
一方、契約が成立した後に別の約束が果たされなかった場合には、民法536条が適用され、売主にも買主にも責任を負う理由がないと「債務者主義」で処理され、売主に責任を負う理由がある場合は「債権者主義」で処理されます。
上記の例の結論となった場合、お金を払ったのに手元に何も残らなくなる買主にとってはあまりにも残酷な結果です。
契約を取り交わしたその瞬間に危険が全て買主に降りかかるのは、以前から批判が多かったと思われます。
もしも倒壊が契約成立の直前だったとすれば、債務はもともと不可能だったことになり、そのような場合には契約は無効で代金支払義務も発生しません。しかし、偶然に契約成立の後に逆の結論になるというのはバランスを欠いています。
そこで、今回の民法改正案では上記の例では結論が逆になり、買主はマイホームの代金を支払わなくてよくなります。
参考までに改正案を示しますと、
第536条
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければ
ならない。
なお、改正民法536条1項の「反対給付の履行を拒むことができる」との文言は、売買代金支払義務がなくなるということではなく、「代金の支払い義務はなくならないものの、代金の支払いを拒否する権利がある」ということになります。
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