【AIと著作権】AIが作った絵画や音楽は著作権を侵害する?

最近、ChatGPTなどAIがかなり発展しており、AIに学習させて指示すると、自律的に文章や画像、音楽などを生成することができ、その精度もどんどん上がってきました。

先日も「手塚治虫の作風で漫画を作った」ことがニュースになりました。

AIにより文章や画像などを作成できることになってしまうと、これらを作る人間(例えば作家やミュージシャンなど)の権利、つまり「著作権を侵害してしまうのではないか」という懸念が生じます。
現在、AIと著作権の関係について文化庁で整理が試みられていますので、今回はそちらをご紹介したいと思います。

生成AIイメージ

著作権について

【1】著作権については、著作家法という法律で権利として認められる

著作権法は著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図ることで、文化の発展に寄与することを目的とする法律です(同法1条)。

【2】著作権法で保護されるのは「著作物」

著作権法によれば、

「著作物とは思想または感情を、創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう」

とされています(同法2条1項1号)。

このように書くとわかりにくいですが、例えばアイディア自体は保護されませんし、事実、それ自体やありふれた表現のものは著作物とは言えないとされています。

例えば「1868年に明治維新が起こった」という事実は著作物ではありませんが、これを司馬遼太郎らが歴史の小説にすると、その表現については著作物として保護の対象になるのです。

【3】著作権は著作者、つまり著作物を創作した人に認められる

著作権は複製や上演をしたり、インターネット上に公開したり(公衆送信といいます)といった利用についての権利です。

そのため、他人が著作物を無断でインターネット上にアップする行為は、著作権者の「公衆送信権」という権利を侵害することになり、著作者は行為の差し止めや損害を求めたりすることができます。
また、著作権侵害は刑事罰も科せられます。

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AIと著作権の問題

【1】生成AIといわれるものは以下のような段階を踏んで、生成物を作っている

① 開発・学習段階

学習用のデータ(例えば「犬」を学習される場合には、いろいろな犬や犬ではないものの画像データが学習用のデータとなります)を入力し、それを取り込んで学習済みのモデルを開発します。

② 生成・利用段階

上記の学習済みモデルに対して、入力・指示をして、AI生成物を出力します。
出力されたものは、文章や画像、音楽として外部に出されることになります。

 

【2】生成AIに学習用データを取り込むことは複製にあたるため著作権を侵害するか、が問題になる

この点について、令和6年3月15日に文化庁から出された「AIと著作権に関する考え方について」においては、

『著作権法30条の4の「当該著作物に表現された思想または感情を自ら享受しまたは他人に享受させることを目的としない場合」にあたるために著作権侵害にはならない』との整理をしました。

これは、平成30年の法改正により新設された規定です。

AI学習のような場合には、この規定により適法にできるとされています。
ただし、その態様次第では「著作権侵害にあたる場合もあるのではないか」ということで、今後整理をしていくことになっています。

 

【3】生成・利用段階では、普通の人と同様の判断基準で、著作権侵害になるかを判断することと整理されている

ここで、著作権侵害となるかについては、「類似性」「依拠性」の有無で判断されます。

「類似性」はつまりは「似ているか」ということです。

似ている部分が表現の本質的な特徴を感じられるかという点が重要ですので、文章のありふれた一部が似ているとかアイディアが似ているといっても「類似性」は認められません。

また、

「依拠性」とは、既存の著作物に接してそれを自己の作品の中に取り込んでいるかということです。

単に似ているだけではなく、元の作品から持ってきたということが重要になります。

なかなか具体例がないとわかりにくいところではありますが、法的にはこれらの要件で判断されています。

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AI著作物の場合も同様となり、

「出来上がった生成AIがもとの著作物の本質的な特徴を感じる程度に似ているか」、

「生成の際に元の著作物を学習しているか」

などという点から判断されることになります。

最初に挙げた手塚治虫の作風で生成された漫画は、見てみると確かに手塚治虫のキャラクターを感じますし、学習のために手塚治虫の漫画自体を取り込んでいるわけですから、著作権侵害となる可能性は高いといえるのではないでしょうか(なお、この話は手塚治虫側も了承しているので問題はありません)。
もっとも、生成して自分で鑑賞するという私的な利用については、著作権が及びませんので、「生成行為自体は著作権侵害とはならない」と考えられています(それを販売、公開する行為が著作権侵害になります)。

 

【4】今後は「AIが生成したものが著作物として権利を持つか」という点も問題になる

上記のとおり、著作物というためには、「思想または感情を創作的に表現したもの」である必要があります。

ですので、利用者である人の思想または感情の表現のための道具として、AIを利用して作成したものは著作物といえますが、AIに簡単な指示を与えて生成したものは著作物にはあたらず、著作権もないと考えられます。
例えば「犬を描いて」とだけ指示して作成された犬の絵は、著作物とは言えないと思われます。

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私たちの生活への影響

今後のAIの発展により、私たち個人も簡単にAIを使った文章や画像の作成ができるようになります。

場合によっては、それをビジネスにつなげようとする人も出るかもしれません。
しかし、それが誰かの著作権を侵害するとなると、損害賠償を受けたり、場合によっては刑事罰が科せられる恐れもあります。

文化庁は今後、こういった点をより詳細に整理していく動きをしているようです。
我々の生活にも影響する可能性がありますので、今後の動きに気を付けておくとよいでしょう。

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田中・石原・佐々木法律事務所
田中・石原・佐々木法律事務所
フットワークのよさに定評のある40代の弁護士4名からなる法律事務所です。専門・得意分野が幅広いことも強みの一つ。分野の異なる法律事務所で研鑽を積み、税理士等他士業と連携体制も取れております。また、セミナーや講演も積極的に行い、良質なリーガルサービス実現を目指しております。事務所は、交通の便が良いターミナル駅JR・東急各線「武蔵小杉駅」から徒歩5分。首都圏エリアのご相談可能です。

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