大きな交通事故が起こった際に
「原因はドライバーの基礎疾患にあるとされ、そもそも会社は健康診断を実施していなかったので病状を把握していなかった」
と大々的に報道される事件があります。
近年では過重労働とそれに起因する疾患の発症が大問題となっていることから、企業には従業員の健康管理が強く求められています。
従業員の健康管理といえば、最低限実施しておかなければならないのが「健康診断」です。
今回は会社に義務付けられている定期健康診断について基本的な事項を確認したいと思います。
健康診断の実施義務
定期健康診断は、1年以内ごとに1回(深夜業労働者などは6カ月ごとに1回)、定期に実施することとされています。
対象者は次に該当する労働者です。下記の条件に該当すれば、パートタイマーなどの従業員も対象になります。
① 期間の定めのない契約により雇用される者
② 有期契約の場合は、契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上雇用されることが予定されている者、すでに1年以上引き続き使用されている者
③ 労働時間が通常の労働者の労働時間の4分の3以上である者
新型コロナウイルスによる延期措置
定期健康診断は、上記のとおり1年以内ごとに1回、定期に実施することとなっていますが、この度の新型コロナウイルス感染症の拡大により、令和2年2月25日に決定された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を受け、その後の通知にて次のように取り扱われます。
「閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する等の一定の環境下の場合、咳やくしゃみ等がなくても感染を拡大するリスクがあることが示されていることを踏まえ、健康診断の実施時期を令和2年6月末までの間、延期することとして差し支えない」とされました。
このため、春先に実施していた健診を秋以降に延期する企業がたくさんあるようです。
健康診断の実施項目
定期健康診断の実施項目は、次のとおりです。
① 既往歴及び業務歴の調査
② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
④ 胸部エックス線検査及び喀痰検査
⑤ 血圧の測定
⑥ 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
⑦ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
⑧ 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
⑨ 血糖検査
⑩ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
⑪ 心電図検査
※ただし、医師が必要でないと認めるときは省略できる項目もあります。
診断結果に異常値があった場合の対応
健康状態に異常がみられた従業員がいれば、会社は医師の意見を聞きながら必要に応じて就業制限、すなわち就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じる義務があります。
ただし健康診断後の再検査については、労働安全衛生法上は会社の実施義務と従業員の受診義務を定めていません。そのため、再検査の受診については従業員の判断に委ねられています。
費用負担
労働安全衛生法等で会社に義務付けられている健康診断の費用は、法で実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています。
では、再検査・精密検査等の費用の負担はどうでしょうか?この場合の費用負担は法令により定められていないませんので、労使間の協議、就業規則等により決定すべき事項となります。
その結果、従業員が負担しても問題ありません。
受診は労働時間になるのか?
「健康診断の受診中の時間は、労働時間に該当しますか?」という質問を受けることがあります。費用は会社が負担するとしても受診中は、労働していませんので、賃金を支払う義務までは会社は負っていません。
労使間の協議の結果、支払わないこととなった場合、時間外に受診しても、休日に受診しても会社はその時間に相当する賃金を支払う必要はありません。
ただし、特殊健康診断は事情が異なります。特殊健康診断とは法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断で、業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断です。
そのため費用負担はもとより、受診に要した時間は労働時間となりますので賃金の支払いが必要になります。
実施後の主な手続き
健康診断を受診後、会社は次のような手続きをする必要があります。
① 健康診断結果の記録
健康診断個人票を作成して、最低5年間は保存することとされています。
② 健康診断結果の労働者への通知
③ 健康診断結果の報告
事業所単位で常時50人以上の労働者を使用する場合、健康診断の実施後、遅滞なく所轄の労働基準監督署に「定期健康診断結果報告書」を提出します。
投稿者プロフィール
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