昨今、テレビやインターネットでもカスタマーハラスメント、通称「カスハラ」という言葉がよく聞かれます。
カスハラの定義は明確に定められているわけではありませんが、「顧客が企業に対して正当な範囲を超えたクレーム・言動をすること」をいいます。
具体的には「根拠がない」、または企業に落ち度があったとしても、「必要以上に行き過ぎた謝罪を要求する」、「侮辱的・威圧的な言動をする」、「暴行に及ぶ」等が挙げられます。
カスハラか、または正当なクレームかの判断基準は、
① 顧客のクレームに妥当性、正当な根拠があるか、
及び、
② クレームへの対応内容が、社会的妥当性の範囲内であるか、
…ということになるでしょう。
なお、カスハラ自体は以前から一定程度発生していたものです。しかし、昨今のSNSの普及により、社会問題としてより顕在化したものであると言えます。
企業の義務
企業は労働者に対し、労働契約法第5条に基づき、安全配慮義務を負います。
つまり、カスハラがあった際に労働者の生命、身体、名誉などを守らなければなりません。
また、労働者施策総合推進法に基づき、パワーハラスメント対策がメインではありますが、カスハラについても顧客等からの著しい迷惑行為を受けた場合には、企業は労働者の相談に乗り適切に対応しなければいけません。
そのためには、相談体制の整備、被害者への配慮の取り組みを行なうことが望ましいとされています。
さらに、2024年5月には自民党が従業員保護策を企業に義務付ける法整備に言及しました。
厚生労働省はこれを踏まえ、法改正を調整することになりました。
具体的には…
① カスハラに該当する範囲や事例を明確化し定義づけ
② 相談体制の整備などを事業者に義務付ける法整備も念頭に対策を強化すること
③ 消費者の権利抑制にならないように留意して検討すること
④ カスハラの予防に向けた顧客対応の従業員研修をすること
…であったりします。
カスハラの法的責任
カスハラを行なった顧客には以下のような法的責任を負う場合があります。
●民事上の責任
労働者に対して精神的苦痛を与えたとして、民法上の不法行為責任に基づく損害賠償責任を負います。
●刑事上の責任
暴行罪、傷害罪、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、強要罪、威力業務妨害罪等が該当しえます。
ただし、いまだカスハラでこれらの責任が発生する、または刑事事件化することはハードルが高いと言わざるを得ません。
他方、暴行罪、傷害罪はいうまでもなく、SNSなどで土下座させている写真を投稿するなどして、名誉毀損罪として刑事事件化されることは比較的ありえるでしょう。
カスハラ対応策
カスハラに対する対応策としては、以下の方法が考えられます。
まずは、企業内の相談窓口に相談して企業として対応してもらうことです。
もっとも、事後的な対策ではカスハラ自体をやめさせることは難しいので、事前の社内教育の段階で「カスハラに該当すると判断した場合には毅然とした態度で対応する」というのが最も効果的でしょう。
また、当然ながら警察に被害届を提出することも必要です。
「警察がどのような対応をとるか」という問題もありますが、顧客としては刑事事件として扱われることを一番恐れるからです。
そして民事上の問題、及び、刑事上の問題も含め、弁護士に相談して対応することも有効な対応策です。
弁護士から顧客に対して「損害賠償請求の通知書を送る」、場合によっては「訴訟提起までする」ことになります。
また、刑事事件化するような被害でも、弁護士とともに被害届を警察に届け、ともに被害を訴え、警察に対応してもらいます。
弁護士が証拠を集め、証拠とともに警察に被害届を提出すれば、一個人として被害届を提出するより、刑事事件化しやすくなるからです。
カスハラだと判断した場合
企業としては顧客を大切にしなくてはなりませんが、残念ながら事実として、正当なクレームの範囲を超えてカスハラに発展することはありえます。
カスハラは現場で起こることなので、事後的な対応では遅くなり、労働者を守ることが難しいのが現状です。
したがって、事前の社内研修などでカスハラの定義を共有し、カスハラだと判断した場合には「毅然とした態度で拒否する」ということが第一次的に重要になります。
カスハラでお困りの際はぜひ、まちの専門家グループまでご相談ください。
投稿者プロフィール
- 当事務所はさまざまな分野の法律紛争に対応しておりますが、案件としては相続事件がやや多めになっております。相続対策は早いほど効果的。気になることがある方は一度ご相談ください。平成25年4月 当事務所の弁護士たちで、東洋経済新報社より『新版 図解 戦略思考で考える「相続のしくみ」』を上梓しました。事務所は、アクセスの良い銀座一丁目駅にあります。まずはお問い合わせください。
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